僕は狼の姿で庭を駆け回っている。

弟達とかけっこするのも大好きだけど、自分のペースで走るのが一番好き。



それに獣姿だと、人姿の時より嗅覚が敏感になる。

あの花すごくい良いにおい。あっ、あっちの木の実はもう食べごろだね。


クンクンと匂いを嗅ぎながら走っていたら、小さな小川が見えてきた。


そばまで行って水面を覗き込むと、向こうの岩の下に魚の姿が見えたよ !!




もし、もしもだよ、僕が勢いよく水に飛び込んで、あの魚を勇しく捕まえたらカッコいいよね。

きっと父上や母上も喜んでくれるし、弟達も僕を羨望の眼差しで見てくれはず ! いやきっと見てくれる !! 間違いないよ !!!

そう思うといてもたってもいられず、僕は前傾姿勢をとり両足にグッと力を入れ、今まさに水の中に飛び込もうとした。



「キャゥ〜キュゥ〜」


けど水に入れなかった。

両足をバタバタと動かして、僕を拘束している腕から逃れようともがいていると。



「ダメだよアメディオ。君は泳げないじゃないか。前にも水面を覗き込んで自分の頭の重さに負けて、水に嵌って溺れたのを忘れてる ? 」


「ギャウギャウ」

(それは人の姿の時の話。庭の噴水を見てたら底が光ったような気がして覗き込んだら、そうなったんだ。でも今は獣姿で頭も重くないし大丈夫なの)


「獣姿で大丈夫だなんて思ってるだろう。でも前に獣姿で走り回ってる時、勢い余って滑って転んでたよね。しかも何回も」


「ギャウギャウ」

(それはたまたまなの。ちよっと失敗しただけ)





そうしてアメディオはオルフェオに捕まって屋敷の中へと入っていった。


「ギャゥゥゥ〜」






その一部始終を茂みの中から見たいた、次男のウルディリコと三男のレアンドロ。


「すげえなオルフェオ兄さん、獣姿のアメディオ兄さん ”キャゥ” としか鳴いてないのに会話が成立してるぜ」


「オルフェオ兄さんはアメディオ兄さん一筋だから。きっと愛の力だとか言いそう」


「ウヘェ〜、それよりアメディオ兄さん、もし川に飛び込んだとして大丈夫だと思うか」


「まず無理だね。前にお風呂に獣姿で入った時に、溺れてるのか泳いでるのか分からなかったし」


「あぁ〜アレな。最後は父上が兄さんの腹に手を入れて支えて。けど兄さんは自分の力で泳いでるつもりだったみたいだしな」


「アメディオ兄さんは母上似だから。母上もよく何にもない所で躓いてこけそうになってるしね」


「あれ不思議だよなぁ〜」




そんな事を弟達に言われているとは露知らず、アメディオは今日もオルフェオに構い倒されてグッタリとしてしまいましたとさ。