今、僕は大きなお腹を撫りながらハチミツ亭まで歩いていて。あっ、ちゃんとヴェネリオ様と一緒だよ。

流石に一人で出歩くと皆に心配させてしまうしね。


今日は天気も良いし、運動と気分転換も兼ねて歩いている。

そしてハチミツ亭にはオルフェオもお忍びで来る予定なんだ。あ、勿論ちゃんと保護者同伴でだよ。




ーーーーチリンチリン


僕達が店に入ると奥まった場所にベルトランドお義父様とオルフェオが座っていた。

2人とも庶民の服装をしているけど、全然溶け込めていない。

どうしても品の良さが滲み出てしまっていて。




逆に僕の隣にいるヴェネリオ様は、違和感無く街に溶け込んでいて。

この国の大貴族で宰相まで務めた人なのに、、、。ある意味すごい才能だ。


「お久しぶりです、父上」

「お久しぶりです」


お義父様は微笑みながら、オルフェオは頭を下げて挨拶してくれた。


「ああ、元気そうだな」

「こんにちは」


そうして僕たちが席に着いたら、仕事に復帰したリーノさんが注文を取りに来てくれた。

ヴェネリオ様とお義父様はハニーマスタードチキンサンドを4人前とコーヒーを。

僕とオルフェオはハニーマスタードチキンサンドをシェア用として1人前と、ホットケーキとホットミルクをそれぞれ頼んだ。


そして料理が届くなり、食べる食べる。

僕もチキンサンドをほんの少しと、自分の分のホットケーキを食べたらお腹一杯で。後はオルフェオが食べてくれた。

こんなに小さいのに凄い食欲。

きっと将来大きくなるんだろうな、羨ましい。


このお腹の中の子は、どうだろう ?





僕のお腹は大きくなり産み月が近いこともあって、今仕事は産休中。お店はマヌウェルさん達に、お任せ状態。

今の僕は店のオーナーみたいな立ち位置になっている。


だってね、妊娠が分かってからの皆の過保護ぷっりが凄まじくて。最初の頃はベッドから出してもらえなかった。

妊娠は病気ではないのだから動かないと駄目だと、根気強く説いていって何とか納得してもらったけど。

本当、あの頃は大変だった。



オルフェオも一人っ子だからか、従兄弟の誕生を心待ちにしてくれている。

最近の口癖は『まだ産まれないの』だ。

そう言えば、今日はまだ聞いていないな。


お腹も一杯になり、一頻り話をしたので帰ろうかとなったとき。僕が席を立つとオルフェオがやって来て、お腹に抱きつきながら。


「早く出て来てね。僕、待っているんだから」


僕は可愛いこと言うなと思いながら、オルフェオの頭を撫でた。ヴェネリオ様もお義父様もそんな僕達を微笑ましく見ていたんだけど。


「い、痛い」


僕はお腹に痛みを感じて顔をしかめた。驚いたお義父様がオルフェオを僕から引き剥がし。


「サトシ、産まれそうか?陣痛か?」

「、、、わからない」


それから僕はお義父様達が乗って来た馬車に急いで乗せられ、帰り着いてからは事情を聞いたピアッジョさん達がお医者さんを手配したり、ジェルヴァジオに連絡したりと大騒ぎ。


しかもオルフェオは産まれるまでは帰らないと言って駄々をこねたため、お義父様が一度事情を説明しに公爵家に一人帰って行って。


そして数時間後。


「クーーンクーーン」


僕は真っ白な毛並みの狼姿の仔を産んだ。



まぁ、ビックリした。

僕としては人の姿で獣耳と尻尾が生えているんだろうな、ぐらいにしか思っていなかったからね。





でも僕は仔を産んだ直後に、気を失ってしまい。


だって物凄い激痛と数時間置きにくる陣痛に、僕の体力は限界まで削られていて。

まぁ産んでホッとしたのもあって、気を失うように眠ってしまい。



僕が眠った後、部屋の中はヴェネリオ様以来の獣姿の獣人に皆固まってしまい。

けど、産まれことを聞きつけたオルフェオが部屋に乱入して来て。


「わぁ~可愛い」


仔に飛び掛らんばかりの勢いで走って来る姿に皆正気にかえり、仔を産湯につけて洗ったり、オルフェオを躱したりと大変だったようだ。



ジェルヴァジオは、眠ってしまった僕につきっきりだった。目が覚めたら視界一杯に心配顔のジェルヴァジオが飛び込んできて。

凄いビックリした。

でもすぐに心配させてしまって、申し訳無い気持ちになり。


出産では何割かの確率で亡くなってしまう人もいるから。

彼はそれをすごく心配していたみたいで。


「僕は大丈夫だよ。ねえ仔に会わせて」

「、、分かった」


そうしてジェルヴァジオが連れて来たのは、まだ目も開いていない仔犬のような姿で。


「この仔が?」

「そうだ」


僕はジェルヴァジオから仔犬改、仔狼を受け取った。

ジェルヴァジオは狼族だから、この姿で産まれてくることは無いわけじゃなかった。

けど、いざ自分が産むとは思ってもいなくて。


「可愛いね~」


はぁ真っ白な毛並みに、弱々しく僕に向かって前脚を伸ばすその姿。

もう我が仔ながらキュンキュンする。


僕はこの世界の哺乳瓶を受け取って、我が仔にミルクを与えてから一緒に眠ることに。


「でも寝返った時に、下に履いたりしないかな」

「大丈夫だ。俺が見守っているら」

「へへ、ありがとう。じゃあちょと眠るね」


ジェルヴァジオは僕と仔の額にキスをしてから布団を掛けてくれて添い寝までしてくれた。僕はジェルヴァジオの体温を心地よく感じ、数分もしないうちに仔と一緒に深い眠りに誘われた。






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まさかジェルヴァジオの仔が獣姿で産まれくるとは。

しかも60年振りの獣姿の仔だ。


「ベルトランドへ連絡する時に、儂等も本邸に戻るから準備しておけと伝えてくれ」


ユーグレの実、一粒目で妊娠して獣姿の仔を産んだ聡。

そして60年振りの獣姿の我が曾孫。


何もなければ無いに越したことはないのだが、、、。しばらくは様子見も兼ねて、本邸で暮らすほうが良いだろう。


何かあってからでは遅いのだから。


「ねえ、僕もサトシ達の部屋へ行きたい。あの仔の所へ行きたいよ」

「オルフェオ、今は我慢しろ。親子水入らずの時間も大切なのだからな」


頬を膨らまし、決して納得していない顔をするもう一人の曽孫。

はぁ~、あの仔とオルフェオを引き離しておくのも、それはそれで不安だの。



いくつになっても心配事は、尽きぬものだ。